『ゲット・アウト』



低予算ながら全米週間興収で1位をとったり、批評サイトでもでも高評価だったとのこと。
ジャンルとしては、ホラーとかスリラーになると思うけれど、監督はコメディアンのジョーダン・ピール。キー&ピールって何か聞き覚えがあると思ったら、『キアヌ』の主演二人組のうちの一人だった。本作が監督デビュー作とのこと。
確かに、ホラーなのに、不謹慎すれすれだったり、笑える要素もあった。

ネタバレ厳禁ものなのでなるべく早めに観た方がいいと思う

以下、ネタバレです。













ネタバレが怖かったので、何も情報を入れないまま鑑賞。
最初、夜道を歩いていた黒人男性が車で誘拐されるのだが、その時に車で流れているのが、なんとも愉快な音楽なのが怖い。普通なら緊迫感があったりおどろおどろしい音楽が流れるシーンである。

しかも、なんだかわからないまま舞台が変わる。
瀟洒なマンションで音楽もおしゃれ。黒人の男性クリスと白人の彼女ローズは幸せそうで、彼女の両親に紹介するために実家に行くところらしい。
最初に誘拐されていたのは薄暗かったしクリスなのかなとも思うが少し違いそうな感じもする。

車で向かう途中に鹿と衝突する事故を起こし、車に血はべったり付くし、不吉な予感。警察も来るが、警察(白人)は運転していないクリスにも免許証を見せろと言う。
無いなら身分証でと言っていたが、私は別にこれは普通のことだと思ったけれど、ローズはクリスが黒人だからね?と言って異常に警戒する。
守ろうとしたと言っていたが、クリスが黒人だということを過剰に意識することで逆に差別している気がして、ローズはあやしいなと思いながら観ていた。

というか、ホラーとかサスペンスだとどうしても何のかはわからなくても犯人さがしをしながら観てしまう。

ローズの家に着いたら、黒人差別をしないという両親の家には黒人の召使いが二人いる。これって現代の設定ですよね?と思ってしまった。今でも金持ちの白人の家では黒人を使役することがあるのだろうか?
わからないけれど、これで「オバマの3期目があったら投票する」と言われても、嘘だろうと思ってしまったし、これで差別してないと言われても…と思った。

けれど、そんな観ている側の気持ちを察するように、父親自ら、二人を雇っている理由を説明していた。それほど納得できるものではなかったが。

母親も催眠療法を使うということで相当あやしい。二人の黒人はどこか不気味な雰囲気だったし、きっと催眠術にかけられて雇われているんだ…と思っていたら、それも見すかすように、クリスの友人ロッドが催眠術にかけられて性奴隷にされているんだ!と言っていた。
こう考えていることを先回りされてしまうと違うのかと思ったが、結果的には性奴隷ではなかったけれど、彼の言っていることは正しかった。

ローズの家に滞在中に両親の知り合いを呼んだパーティーが開かれる。この客人たちも白人ばかりでいよいよあやしい。
ローズの弟もそうだったけれど、気軽に体にぺたぺた触ってくる。確かにクリスは綺麗な筋肉をしているが、何か、「(黒人だから)身体能力が高いんでしょう?」とでも言いたそうだった。また、「時代はめぐっている!今は黒の時代だ!」とも言われていた。
歓迎ムードだし、けなされているわけでもない。けれど、ここでも特別扱いというか、白人の中に一人だけ黒人が混じっているのを腫れ物を触るがごとく対応されていた。

何かわからないけれどとても注目されている感じとか、場違いとか居心地の悪さを感じる。嫌でも他の人と違うことがわかってしまう。「黒の時代」とか言わなくてもいい。

しかも、やっと仲間がいたと思って話しかけた黒人は様子がおかしい。
自分の感じている居心地の悪さをまったく感じていない。白人のだいぶ年上のご婦人と親しげにしているからだけではない。あの不気味さは、白人だらけの状況で穏やかで幸せいっぱいの表情の黒人はいないという強烈な皮肉だったのかもしれない。

今まで、黒人差別はいけない!というメッセージのこめられた映画はいくつか観てきた。けれど、当事者の気持ちがわかったのは初めてだった気がする。
それは、なんとなく自分にも身に覚えがあることだったからだ。飲み会でもなんでもいい。行った先で、よくわからない場違い感をおぼえ、はやく帰りたいと思ったことはないか。やっと知っている人を見つけて話しかけたら他人みたいな顔をされたことはないか。

クリスは結局ローズの家に捕られてしまうのだが、そこで調査に乗り出すのが友人のロッドだ。黒人である。ロッドのノリを見ていると、白人のご婦人といた黒人男性の異常さがよくわかる。

ロッドは最初から「白人女の実家になって行くな」と言っていて、それが正しかったのだ。
連絡がとれなくなったので警察(黒人)に届け出るが、「白人女にからかわれてるのよ」と笑って相手にされない。ここでも、そんなことよくあることという皮肉がきいている。

黒人男性が行方不明で白人女性が関わっているとこんな対応ととられるのか。もどかしい。

よく、子供が警察に行って状況を伝えても、「はいはい(笑)」みたいな蔑ろな態度をとられて、映画を観ている側は本当のことだと知ってるから、本当のことなのにー!ともどかしい思いをすることがあるけれど、黒人も同じような態度をとられるのか。しかも聞いている警察の方々も黒人である。あの状況に慣れてしまっている。

ホラーとかサスペンスの形をとりながら黒人差別の実態をリアルな形で見せる手法がおもしろい。直接的ではないあたりがうますぎる。

ただ、黒人差別の話だけではなく、ホラー部分も伏線が回収されていくのがおもしろかった。
単純なところだと車で逃げようとしたら、あの最初に出てきた愉快な曲が流れ出して、この車だった!とわかったり。もうあの曲自体が怖い。あんな愉快な曲を流すなんて、誘拐自体をなんとも思っていないか慣れているのだろう(曲のタイトルが『Run Rabbit Run』。余計に怖い)。

クリスを落札したのは盲目の画商で、クリスの写真を褒めていたけれど、あとで君の目を通して世界が見たいと言っていて、才能は本当に買っていたのかと思った。

また、最初にあやしいと思っていたローズがやっぱりただのクリスの彼女ではなかったが、身分証の件は、来る途中のあんな人通りのなさそうな場所でクリスの身元が警察に割れたら行方不明になったときにすぐにバレてしまうからかとあとで気がついた。

もっとたくさん気づいていない細かい伏線がありそう。最初に轢いた鹿と捕らえられていた部屋の鹿の首は何か関係があるのだろうか(轢いた鹿とクリスの母親が轢き逃げされた件がかかっているのではないか…との話もあるみたい)。

家に雇われていた黒人二人はいずれも頭の傷が痛々しい。男性のほうはフラッシュで正気を取り戻してから、ローズを撃ち、自分に銃口を向けた。あまりにもつらい。

そしてラスト、撃たれてもなお起き上がろうとしたローズの首を絞めるクリス。そこへパトカーが…。
周囲には他にも死体が転がっていて、血まみれの黒人男性が白人女性の首を絞めている状況。せっかく逃げてきたのに終わったと思った。
前のシーンで、警察に黒人男性の人権が軽んじられているような発言をされていたのを聞いたせいだけではない。黒人の不当な逮捕はニュースでもたびたび報じられている。

しかし、パトカーは空港の警備にあたる車であり、乗っていたのは空港警備員の友人ロッド! 良かった! ほっとした。もう本当に、最初からこの友人の言うことを信じていればよかった。きっとクリスがローズと付き合っている最中にも、ロッドはローズのことをボロクソに言っていたと思う。

これが、元々は逮捕されるラストだったらしい。現実でたくさんこのような事件が起きてしまったために敢えて変えたとか。DVDにはアナザーエンディングとして収録されるらしい。

多少、びっくり表現(大きい音が鳴って怖いものが映る)があったり、グロテスク描写もあるけれど、そこまでホラー色は強くないと思う。
それが主体ではなく、黒人差別問題が、説教くさくなく、でも私にもリアリティを持てるように作られているのがおもしろかった。
悲痛さというよりは、淡々と、そうゆうものだと描かれているからリアリティがあったのかもしれない。
あと、コメディ要素(特にロッド関連)もあったのに、笑いは全然起きてなかった。私もにやにやするのに止めておきました。もっと笑って大丈夫です。監督コメディアンだし。

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