『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
Posted by asuka at 9:00 AM
『コララインとボタンの魔女』、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』のスタジオライカ作品。ストップモーション自体もものすごいけれどストーリー展開の確かさにおいて、スタジオライカの右に出る制作会社はいまのところないと思う。
今回もまったく心配をしないで観て、やはり安定しておもしろかったのですが、それより日本の公開が一年と三ヶ月も遅れているのが納得いかない。
日本が舞台で主人公が三味線を持って戦うのもそうなんですが、日本の文化にまで言及されているから、はっきり言って、外国の人よりも生まれながらにその文化に触れてきている日本人の心に沁みる作品だと思うし、これが日本でヒットしなかったらスタジオライカに失礼です。
本当はお盆の時期に合う作品だと思うけれど、夏休み映画として弱いのはわかるので、夏休み前、7月上旬くらいには公開して欲しかった。それか、アカデミー賞やゴールデングローブ賞を始め、アニメのアカデミー賞といわれるアニー賞にも多数ノミネート、受賞もしているので、アカデミー賞直後くらい、今年の春くらいには公開できなかったのか。それか、これだけ遅れるならもっと大々的に宣伝をしてほしかった。宣伝次第では人が入る映画だと思う。
今回、吹き替えで観ましたが、ピエール瀧や小林幸子も合っていてうまかったし、クボを狙うおば役の方も声が歪ませてあるからそれほど気にならなかった。
また、エンディングが吹き替え版では吉田兄弟なのですが、これはスタジオライカ側からのオファーだったらしい。吉田兄弟が弾くビートルスの『While My Guitar Gently Weeps』、三味線が主人公の武器のようになっている映画だし、当然合っていた。オリジナル版を観ていないのでわかりませんが、こちらの主題歌の方が合っているのではないかと思ってしまった。
(追記:字幕も観ました。シャーリーズ・セロンのサルの凛々しさとマシュー・マコノヒーのクワガタの飄々としていて剽軽ながらも強さを見せる様はよかったけれど、今回は吹き替えも負けていないと思う。字幕を読まずに画面に集中するためにも吹き替え推奨。また、エンディングテーマは吹き替え版よりも歌が多かった印象。三味線も入っていたけれど、こちらも日本版だとちゃんと吉田兄弟という名のある方々が手がけているからいいと思う)
以下、内容についてのネタバレを含みます。
ストップモーションアニメということで一週間で平均3秒しか制作できないとか、主人公のクボの顔だけで4800万通りあるとか、途方もない労力が費やされている。メイキングを見るのも楽しいです。
クボは赤ん坊のころ、闇の力を持つ祖父に父を殺され、クボも片目を奪われて母と一緒に暮らしていた。
昼間には村に出て行き、三味線の音色で紙を折り、その折り紙を動かして物語を紡ぐという不思議な力を使って大道芸を行っていた。
このシーンからして本当にわくわくする。
クボの周囲に人の輪ができて、みんな目を輝かせていたが、私も同じ顔で見守っていた。
三種の神器を使って侍が悪者を倒すという昔話のようなストーリーもよかった。
ある日、クボは夜になっても外にいたために、母の姉妹で祖父と同じく闇の力を持つものたちにもう片方の目も奪われそうになる。そこへ母が来てクボを助けたが、命を落としてしまい、クボの三種の神器を手に入れて、祖父を倒す旅が始まる。
一緒に旅に出ることになるサルは珍しく女性の声で、クボにやたらと世話を焼いている様子がお母さんっぽいなと思ったらお母さんだった。
クボとこのサルと折り紙で作ったハンゾウ(父?)とクワガタとの冒険である。仲間がだんだん増えていく様子や、三種の神器を探して敵を倒すという目的がゲームっぽいと思った。
そして、クワガタも父だったんですが、それは観ているとなんとなく予想はつく。
途中でサルが母、クワガタが父だとわかっても、意外性はそれほどない。でも、そこが主題ではないのだ。
だって、この先、クボはサルとクワガタとクボは末長く仲良く暮らしていきましたとさ、おしまい。という話ではない。母上、父上と会えてよかったねという話ではないのだ。
もちろん会えてよかったとは思う。それに、物心ついた時から父の姿のなかったクボが「いつも母上と二人だったから、食卓を囲んだのは初めてだ」と言ってたのも、良かったね…とは思った。
しかし、この時間が長くは続かないだろうというのはなんとなくわかる。
実際の母も父も死んでいて、魂だけがクボに一時寄り添っているのがわかる。なんというか、濃厚な死の予感が漂っている。
そして、実際にサルもクワガタも消えてしまう。それでも、クボの中には、母と父と一緒に冒険をした思い出は残る。
クラマックスでは村民が川に流した灯篭のぼんやりとした美しい灯りが亡くなった人の形になる。明確なワードは出てこないが、もちろん、時期はお盆でこれは灯籠流しである。
お盆の時期だけ亡くなった家族の魂は戻ってきて、時期が過ぎればまた帰って行ってしまう。でも、心の中に生前の人々の思い出はずっと残っている。
死者の魂を弔う気持ち、すでに亡くなった人に想いを馳せるこの感じは、もうどこから学ぶでもなく、生まれた時から備わっているものというか、日本人ならば根本的な部分でわかるものだ。
海外の映画でも感動できる映画は山ほどあるが、文化的な面では初めて見るものや理解できないものもある。それは映画で学べばいいことだ。
この映画は海外の映画なのに、日本人の心の奥を突いてくる。
海外ではかなりヒットした映画だけれど、外国の人よりも、日本人のほうが自然に受け入れらる部分が多い内容だと思う。だからこそ、日本でヒットしてほしい。
感動というか、自分で体験したことなどを思い出して、自然と涙が出てくる。
最後、月の帝だった記憶をなくしたクボの祖父に対して村民たちが優しく接しているのも良かった。村をぐちゃぐちゃにされるなど、酷い目に遭わされたのに。それでも、優しかったエピソード(おそらく嘘)を話して、記憶を上書きしてあげる。
サルとクワガタのことはそれほどびっくりするネタばらしではないが、それでも、最初から知った上で観るとまた違った伏線などにも気づけそう。
できれば、もう一度観たい。今度は字幕で。
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