『ヘイトフル・エイト』



クエンティン・タランティーノ監督作の8作目。ヘイトフル・“エイト”ということで、映画の最初にも“8th”という文字が最初にもこれみよがしに出る。
なんとなく、もっと撮ってるイメージだったので驚いた。
あと、最初にキャスト名が出るんですが、出演しているのを全然知らなかった人の名前が出て、それも驚いた。ここで名前出さなくても良かったのでは…、いきなり出てきたほうがおもしろいのに…とは思った。

以下、ネタバレです。









予告編を見る限りだと、出演者が8人で小屋を舞台にした密室劇なのかと思っていた。けれど、オープニングが吹雪の中を馬車が走っているシーンと、いきなり屋外だったのでびっくりした。
真っ白な、いまにもホワイトアウトしそうな景色の中、馬車がぽつんと走っている。アカデミー賞作曲賞を受賞したエンニオ・モリコーネのどことなく悲しげで、何か起こりそうで、情緒感たっぷりの音楽が気分を盛り上げる。
映像も綺麗で、ここだけでも感動してしまった。
70mmのフィルム撮影をしているらしいけれど、その上映ができる映画館は日本にはないそうです。

序盤は小屋での密室劇ではないものの、馬車の中の会話で進んでいく。これもある種、密室劇でもある。
普通の映画だと、人物が話す内容が映像で表現されていたりする。けれど、この映画だと話す人物の顔が映っているのがおもしろい。
でもよく考えてみると、友達と話している時などと、同じである。友達の顔を見ながら話を聞いて、その情景を自分の頭の中で思い浮かべている。
だから、私も、一緒に馬車に乗って話を聞いてる感覚になった。

ただ、ここでの会話ですが、タランティーノ映画特有の無駄話ではない。小屋での会話もそうですが、会話自体が多いのはいままでと同じだけれど、最初から最後までストーリーに関係のある話をしているのが特徴的だと思う。

吹雪がひどいので、ミニーの服飾店という小屋で休ませてもらうことになる。そこには先客がいるし、ミニーがいない。そもそも予告で、全員嘘つきというようなことを言っているし、最初からあやしんでしまった。

ところで、ヘイトフル・エイトでも9人いて、何度も頭の中で人数を数えてしまったけれど、馬車の御者であるO.B.は別にヘイトフルじゃないってことで人数に含めないようだ。

ここから密室劇が繰り広げられる。
基本的に先程と同様、話しているときにその内容ではなく話している人物が映っているが、ウォーレンがスミザーズ将軍(ブルース・ダーン。良い)に向かって、息子の話を話す時だけは映像が出る。
挑発しているだけで、本当にあったことなのかはわからない。だから、おそらくスミザーズ将軍の頭の中の映像を見せてくれているのだろう。
将軍の息子が素っ裸で雪の中を歩かされるというシーンがあるんですが、男性器が映っているため、映画自体が18禁になっているのではないかと思う。その年齢制限のリスクをとっても、ここだけは頭の中のことを映像として入れたかったのだろうか。将軍の怒りを観客にも共感してもらうため? 逆に、こんなことをされたら銃を手にとってしまうのも仕方ない、と将軍の事物の善良さがわかるシーンにもなっている。

ウォーレンが正当防衛として将軍を撃つと、ここまでの胡散臭いような空気が嘘のように、話が血なまぐさくなり、緊張感が生まれる。


今作も章仕立てになっているのですが、種明かしをする章が用意されているのもおもしろかった。全員に不信感を持って映画を観ていたけれど、そこで一気にすっきりする。なるほどなーと思いながら唸ってしまった。

ウォーレンたちがミニーの店に着いたときに、ドアが開かなくて、「蹴っ飛ばせ!」と言う声が中から聞こえてくる。二人が叫んでるけれど、中にいるのは三人で、その中の一人、おじいさん(スミザーズ将軍)だけ話していないことについても謎がとけた。それより、ドアがどうして壊れたかもわかった。
意味ありげな床に落ちたジェリービーンズの謎も、デイジーが毒を入れるのを黙って見てたかもクセモノだからというだけじゃなくて、仲間だったからというのがわかった。

映画全体が納得のいく作りなのだ。

種明かしの章の直前、床の下に隠れていたのがチャニング・テイタムでデイジーの弟役だった。この人の名前が映画の最初に出てきてびっくりしたのだ。今回はすかしたギャング役。
好きだから贔屓で見てるせいもあるかと思いますが、どんどん演技がうまくなっていると思う。好きだからと書いたけれど、最初はあまり好きではなかった。多分、『21ジャンプストリート』で一気に好きになってしまったのだと思う。『ヘイル、シーザー!』も楽しみ。

種明かしの章の次の最終章、黒人ということで、ウォーレンに対して馬鹿にしたような態度をとっていたマックスだったけれど、2チームに分かれたようになってしまったためか、正義感からか、友情のようなものが芽生えていた。新しい保安官だったのかどうかは最後まで明かされないけれど、本当だったのかもしれない。

デイジーは考えていることがよくわからないながらも、結局は愛嬌のある女性かと思ったけれど、心底ひどかった。ルースと手錠で繋がれてるうちに恋愛関係にでもなるのかと思ったけど、そんなこともなく。

最後の吊るし首はやりすぎな気もしたけど、してきたことを考えるとまあしょうがないのかなという気もする。弟(チャニング・テイタム)の手首がぶらぶらしていたのは妙なおかしみがあった。

最後、マックスがウォーレンの持つリンカーンからの手紙を読み上げるシーンは感動的だった。
映画を観ながら、気持ちを委ねる先がサミュエル・L・ジャクソンしかいなかったから本物だと信じたいけどやっぱり創作のようだ。
南北戦争時代の黒人の地位向上など、ウォーレンの、タランティーノの願いのようなものがこめられていた。

『ジャンゴ』もそうだったけれど、人種差別についての問題提起もきっちり行っている。ただのイケイケ西部劇ではない。
これを最後に、誰でもないマックスが読み上げるというのが更にいいのだ。

上映時間は168分と長い映画である。けれど、人の話を一生懸命話を聞いてるうちに168分経ってた感じ。長さは全く感じなかった。

この映画はパンフレットもかなり充実していた。音楽、キャスト、美術、監督過去作についてはもちろん、欄外に小ネタが書いてあったり(エクスペンダブルズ方式)、元ネタについても知らなかったのでためになった。
単純に読み物として嬉しい。全部読んで一時間以上かかりました。表紙もこれをポスターにしてほしいくらい恰好いい。
そして、値段が880円というのもこだわりが感じられる。

これを読んだ小ネタなどを踏まえた上でもう一回観たいところだけれど、168分は初回観賞の集中力でなせる業だったのかもしれない…と考えると厳しいか。

0 comments:

Post a Comment