『不屈の男 アンブロークン』



2010年出版の“Unbroken”という同タイトルのノンフィクション小説がもとになっているとのこと。
アンジェリーナ・ジョリー監督、コーエン兄弟脚本と日本でも話題になりそうな布陣なのに、公開規模がとても小さい。
それは、週刊誌によって、反日映画というレッテルが貼られたせいなのかもしれない。はっきりいって、これが反日映画として公開しないのなら、『レイルウェイ 運命の旅路』や『戦場のメリークリスマス』も公開できない。
また、人肉を食べる描写があるというようなことも言われていたようですが、出てきません。「日本人は魚を生で食べる」というセリフとの勘違いかと思っていたけれど、原作では少し触れられているらしい。
こんなことで公開規模が小さくなってしまうのは惜しい映画だった。それでも、公開してくれただけでも良かったけれど。

タイトルですが、“アンブロークン”を前にして『アンブロークン 不屈の男』にしたほうが探しやすいのではないかとも思ったけれど、少しでも、あの反日映画、カニバリズム描写がある…といった情報を忘れさせるために逆にしたのかもしれない。

以下、ネタバレです。






映画は大きく前半と後半に分かれている。オリンピックの陸上選手であるルイ・ザンペリーニが戦争で戦いながら、過去の選手生活を思い出していると、乗っている飛行機が撃墜されてしまう。海上に不時着したものの、生き残ったのは三名。
ここから『ライフ・オブ・パイ』や『白鯨との戦い』のような海上漂流ものになる。もっとゴリゴリの戦争映画だと思っていたので意外だった。
ここからしばらくは、ルイを演じるジャック・オコンネルとフィルを演じるドーナル・グリーソン、マックを演じるフィン・ウィットロックの三人芝居です。
食料や水は尽きそうになる、照りつける太陽、下には鮫、助けは来ない…。どんどん痩せていくが、特にドーナル・グリーソンは大丈夫なの?と心配になるくらいあばらが浮き出ていた。
本作、キャストも豪華ですが、この前見た『マネー・ショート』で気になったフィン・ウィットロックはここでも恰好良かったです(ちなみに、『マネー・ショート』でコンビを組んでいるジョン・マガロはどこに出てきたのかわからなかった)。ただ、マックは海上で途中で息絶えてしまう。ここで出番が終わりかと思うと残念でした。

そして、待望の助けが来る。が、近づいて来たのは日本軍の船だったため、二人は捕虜にされてしまう。
ここからが後半。海上漂流ものは終わり、作品のカラーがガラッと変わる。

ここで、収容所の所長、渡辺伍長を演じるのがMIYAVI。名前は聞いたことがあったものの、あまり詳しくは知らない人でした。ミュージシャンで俳優としては本作が初とのこと(インディーズ映画には出ている模様)。
渡辺は捕虜を痛めつけて従わせることで喜びを得ているような人物だった。これが、MIYAVIとよく合っていた。外見は若い頃の岡村靖幸とか鳥肌実のようだった。蛇などのは虫類を思わせるような、ぬめっとした陰湿な目つき。顔は整っていて、感情が欠落しているように見えた。“美しく創られた怪物”ともとの小説に書かれているらしい。
英語は特別うまいわけではないけれど、日本語より英語のほうが演技がうまく感じた。

捕虜の収容所の代表者みたいな役でルーク・トレッダウェイも出ていた。顔もですが、演技も際立って良かったのは知っている役者だからだろうか。

収容所の外の日本描写も少しあったのですが、よく外国人によって描かれるようなトンデモ日本じゃないのが好感が持てた。
町を歩く人の服装、モダンな建物などがしっかりしていたのは、監修が入っていたのだろうか。

収容所に送られるときに、ルイとフィンはばらばらにされるので、そこでドーナル・グリーソンも出てこなくなる。
渡辺が他の捕虜たちに、プロパガンダ放送を拒んだルイのをことを殴れと言うシーンで、捕虜たちは当然嫌がるのだが、そこで代わりにどこからか連れてこられたフィンが殴られる。ルイはそんなことは当然許せないから「俺のことを殴ってくれ」と捕虜たちに言う。後半ではここの少しのシーンだけだったかな…。頭を怪我していたし、労働はしていなかったのだろうか。
もしかしたら途中で死んでしまったのではないかと思っていたけれど、最後に生きていたという報告が文字だけで出る。それならもう少しドーナル・グリーソンが出てきたら良かったのにとも思うけれど、あくまでもルイを軸にした話なので、入れなかったのかもしれない。

後半、渡辺に命じられて、ルイが重い木材を持ち上げるシーンがある。木材は棒状だったし、ルイが痩せて髭もはえているせいか、キリストにも見える。
海上で漂流しているときに、助かったら神の道に入ると言い、戦争後に実際に入ったらしいのと、渡辺や日本軍のことも“赦す”というのがテーマになっているので、キリストのように見えたのも意図された映像なのかもしれない。

最後、実際のルイが日本に来てマラソンを走っている映像が流れた。1998年の菜がのオリンピックの聖火ランナーだったらしい。にこやかに沿道の日本人に手を振っていて、涙が出てきた。
『戦場のメリークリスマス』でセリアズがヨノイにキスをするシーンを思い出した。あれも“赦し”だろう。『レイルウェイ』の手紙の交換も同じだ。

戦争について考えさせられる面も存分にあるし、おもしろかったけれど、実在の人物に起こったことを辿っているだけにも思え、作りがやや単調にも感じた。
上映時間137分ということで、前半の海上漂流パートが長い気もした。捕虜パートだけでも良かったかもしれない。ただ、個人的にはフィン・ウィットロック目当てだったため、前半が削られると彼の出番が無くなってしまうのも困る。
あとやはり、二つの困難を乗り越えたということを描きたかったのだろうから、両方無くてはいけなかったのだろう。
ちなみに、原作では戦争後のルイの人生も描かれていて、これはこれでとてもおもしろいらしいので読んでみたい。

なんにしても、俳優が監督をしたとは思えない、良い出来だと思う。小規模上映になってしまったのは本当にもったいない。


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