『マネー・ショート 華麗なる大逆転』



原作は『マネー・ボール』のマイケル・ルイスの『世紀の空売り』。原題は『BIG SHORT』。ショートというのは日本語でもそのまま使われるけれど、この場合のショートは空売りのshort sellingの意味。
製作、出演にブラッド・ピットがいることから、『マネーボール』と関連づけるためにこの邦題にしたのではないかと思われる。

監督はベネット・ミラーではなく、『俺たちニュースキャスター』のアダム・マッケイ。コメディ監督の印象だったので驚いた。
とはいっても、金融危機の裏で儲けた人たちという金融ものであっても、堅苦しくは無く、くだけた表現の部分は多い。
脚本のチャールズ・ランドルフとアダム・マッケイがアカデミー賞脚色賞を受賞しています。

ポスターはスティーヴ・カレル、クリスチャン・ベイル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットが四人が並んで歩いているというもの。外見がバラバラなことから、職や生活、性格などが違う人たちの集まりなのだろうなと思った。
この四人が個性と特技を生かしながら金を儲ける、ケイパーものっぽい感じなのかなと思ったけれど違った。
リーマンショックをめぐる群像劇で、スティーヴ・カレルとライアン・ゴズリングは同じグループだけれど、四人が協力して何かをやるわけではない。別々の話です。
一つの事象をめぐっての、彼らのそれぞれの場所での暗躍である。

金融用語の解説が合間に含まれている。なるべくわかりやすく解説しようという工夫が感じられた。
ストーリーと関係のない人物が出てきて、場面も本筋とは切り離し、完全に用語解説コーナーになる。マーゴット・ロビーがセクシーにバスルームから解説したり、レストランのシェフが古くなった魚をシーフードシチューにするという例え話をしたり。セリーナ・ゴメスのカジノでの例え話もわかりやすく、なるほどと思った。

それでも、金融用語の予習はしておいたほうがいいかもしれない。あと、金融危機とかリーマンショックとはなんだったのかというのもやんわりと調べておいたほうがいいかも。実話系だと、その実際起きた事件などについて調べると映画のネタバレにはなってしまってつまらないということもあるけれど、この場合は大丈夫だと思う。

私はタイトルにもなっていたし、空売りだけは調べたけれど、全体的に金融のことを何も知らなかったので、映画を楽しめはしても、しっかりと理解はできなかった。

解説コーナー以外にも、登場人物もカメラ目線というか、映画を観ている私たちに向かって話しかけたり簡単な説明をしてくれる。
説明以外にも早口のシーンが多いため、字幕を読むので精一杯、読んで理解するまでには至らない部分もあった。頭で考えたいけれど、隙がないというか、字をただただ目で追っているだけのようになってしまった。
また、せっかく演技のうまい俳優が揃えられているのに、字幕ばっかりじっと読むのももったいなくて、顔を見てしまうこともあった。かといって、顔を見ながら英語を聞き取ってどうにかなるものではない。日本語で読んだって理解できないのに。

でも、これからリーマンショック周辺について調べようと思ったし、もっと知りたいと思わされた。

以下、ネタバレです。











音楽の使い方もポップで、金融ものらしからぬという感じだった。その時代に流行っていた曲を使ったのかなと思ったんですが、ナールズ・バークレイの『Crazy』が2006/3/13リリース、ゴリラズの『Feel Good Inc.』が2005/5/9リリースですが、映画内では『Crazy』のほうが使われるのが早かったので違うのかも。それとも、群像劇の違うグループを描いているときに時代が前後していたのかもしれない。どちらにしても、サブプライムローン問題からのバブル崩壊が2007年なので、その直前の曲ではある。

あと、ラスベガスの日本料理店Nobuで徳永英明がかかっていて、タイトルが思い出せなかったんですが、エンドロールで『SAIGO NO IIWAKE』と書いてあって、ああと思った。この曲は1988年みたいなので時代に合わせてはいないんですが、曲のタイトル『最後の言い訳』がまさに状況と合っていて、合わせたのかなんなのかはわからないけど絶妙でした。

時代を表すものとして、音楽の他に、スチルがぱっぱっぱっとテンポ良く出ていた。合間にその時代のMac製品が含まれていたのはわかりやすかった。

実話ということですが、クリスチャン・ベイル演じるマイケルは本当にいたのかと思うくらい変わった人物だった。他の登場人物が、他の人物と話し合いながら行動するのに対して、彼は一人きりで大金を動かす。元々一人が好きで…という自己紹介も入っていたけれど、部屋で大音量でメタルを聴いたり、ドラムをばしばし叩いたり。
ただ先見の明があるというか、分析力が高いというか。あと、誰も信じてくれなくても、自分だけは自分を信じていたのが勝因なのだろうと思う。
彼は今、一つに絞って投資しているらしいが、それは水だという。あとはわかるなとでも言われているようで少し怖かった。

ライアン・ゴズリング演じるジャレドとスティーヴ・カレル演じるマークは、実は映画を観ている最中は彼らが所属するフロントポイントキャピタルが何の会社だったのかよくわからなかったんですが、ヘッジファンド会社とのこと。
ライアン・ゴズリングが男前じゃない役(そもそもラブの介入する隙のないストーリー)だったんですが、やり手ビジネスマンでした。
スティーヴ・カレルは何かと言うと癇癪を起こしていて、ちょっと『フォックスキャッチャー』のデュポンさんを思い出した。でも、後半に行くに従って、苦悩する姿も見せる。騒動が終わった後は、穏やかになったらしいというのも、気持ちの移り変わりを見ていたら頷ける。

ブラッド・ピットは今回もずるい役。『それでも夜は明ける』ほどじゃないにしてもずるい。
若い個人投資家が、大金が手に入りそうで、いえーい!と浮かれてダンスを踊っていたら、「僕らが儲けることで何百万人が路頭に迷うかわかっているのか!」と諭されてしゅんとしてしまう。
たぶん、これが作品のテーマなんですよね。
騒動の中で大金を手にした人たちのことを描いていても、誰一人幸せそうじゃない。映画を観る前、ポスターを見たときには、四人が協力して銀行共をやっつけてスカッと終わるのかと思った。サブタイトルの“華麗なる大逆転”とはほど遠い。
銀行関係者で逮捕されたのは結局一人だけみたいだし、移民や貧困層が非難されるという結末になったという、正しかったのかどうなのかわからないような事態になってしまった。ばんざーい!と諸手を挙げて喜べる状況ではない。

ブラッド・ピット演じるベンは、以前銀行で働いて退職し、銀行業に悲観的になっている。個人投資家の二人が「なんで手伝ってくれたの?」と聞いたら「金持ちになりたかったんだろ?」と言っていた。
彼が、結局田舎でオーガニック栽培に従事しているように、「金持ちになりたかったんだろ?」と言う言葉の裏には、「なってどうだった?ろくなもんじゃないだろ?」という意味が含まれていそうだった。
ベンのセリフにはどれも重みがあって、考えさせられた。これはずるい。

ところで、この個人投資家を演じた二人がとても良かった。ポスターにも載ってなかったし、こんな人たちが出てくることすら知りませんでした。映画の日本の公式サイトにも、ポスターの四人のことしか出ていないけれど、これを機に、日本で無名(私が知らないだけかもしれない)の二人も紹介して欲しい。
チャーリー(ジョン・マガロ)とジェイミー(フィン・ウィットロック)は個人投資家とはいえ若造なので、銀行にもウォールストリートジャーナルにも信用してもらえない。スーツを着ていても、着慣れていないのがわかる感じってなんなんでしょうね。マイケル(クリスチャン・ベイル)もそうでしたが。演技のうまさなのか、安いスーツを着てるのか…。

周囲からのあしらわれ方も含めて、反応などが一番親近感が持てた。この二人が主役のスピンオフが観たいけれど、さすがに地味すぎるか…。

フィン・ウィットロックはテレビドラマ中心のようだ。『アメリカン・ホラー・ストーリー』に出てるらしい。2017年公開予定の『Abe』という映画で妄想癖のあるエイブくんを演じるみたい。タイトルの名前なので主役だと思う。共演はジュノー・テンプル。

ジョン・マガロは『キャロル』に新聞記者役で出ていたらしいけれどおぼえていない…。最近公開された『ザ・ブリザード』にも出ているみたい。また、2016年公開予定の『ウォー・マシーン』にも出るみたいだけど、これがブラット・ピットのプランB製作とのこと。

更に、この二人はアンジェリーナ・ジョリーが監督した『不屈の男 アンブロークン』に出演しているとのことで、どうも、夫婦のお気に入りらしいことがわかりました。私も注目していきたい。

ラブ要素がほとんどないせいか、女性の登場人物がほとんどいない映画なんですが、ジェイミーの兄の元カノという役でカレン・ギランが出ていた。背が伸びたのか、髪が短いせいか、手足がすらっと長く、スタイル抜群だったし、色の白さと髪の毛の赤さで彼女だけ輝いて見えた。とても可愛かったです。

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